福岡天神、親不孝通りからチョット入った所に江戸時代から続く老舗の醤油屋がある。幕末には西郷隆盛を匿った事もあるのだとか…行ってきました。
「福萬醤油」醤油バーを併設、醤油ソムリエがいる老舗
福岡の天神と言えば若者が集まる九州では最先端を行く繁華街、そんな繁華街の中に文政四年(1821年)に創業したという約200年も続く老舗の醤油屋さんがありました。名前は福萬醤油、今は醤油ソムリエが営む「バル福萬醤油」という食事や醤油のテイスティングができるお店になっています。筆者は醤油は好きなほうで、特に九州に引っ越してきてからは「旨口」といわれる旨みの強い醤油にハマってます。福岡だとヤマタカ醤油、佐賀の佐星醤油、西岡醤油あたりがお気に入りで、用途に合わせて使い分けたりするほど九州醤油にご執心。いつか九州にある老舗の醤油を中心に、今も地域の人に愛される普段使いの老舗商品を取り扱う通販サイトを作りたいと思っているほど。
とまあそんな風なので、天神に老舗の醤油屋さんがあると聞けば行かないはずもなく、訪問してきました。
醤油ソムリエ監修の九州醤油
区画整理でこの場所に移って来たという福萬醤油。
江戸時代はこの場所ではなくて、もっと大通りに近い場所にあったという福萬醤油。この場所から少し北西方向、旧唐津街道に面して建っていたそうです。
お店の正面入り口。
正面から見ると和の雰囲気で作られたゲートのような入り口と、洋風の建物とのコントラストがモダンすぎる。大きな建物ではないけども、ズシッと重みを感じる外観。醤油の販売やテイスティングバーへは、向かって左の階段を上がっていきます。
醤油テイスティングランチのメニュー。
入口にランチメニューがありました。醤油テイスティングランチということで、醤油ソムリエの案内を受けながら様々な醤油を味わえるという個性派ランチ。メニューは鯛茶漬け善と焼き魚善、そしてたまごかけご飯。
階段の途中にあったポスター。
「あなたのmy醤油が見つかる店」というキャッチコピー、醤油好きにはたまりませんね。まだスーパーで大手の醤油を買っている人がいたら、一度でいいので老舗の美味しい醤油を味わってみてください。香りが全く違いますから、炊き込みご飯なんかにすると違いが際立ちます。
「バル福萬醤油」醤油販売とテイスティングバー
歴史を重ねた福萬醤油の看板、明治時代のものだそうです。
入口を入ってまず正面にあったのが福萬醤油の看板。重ねられた本物の歴史が持つ重みというんでしょうか、特別何かが凄いわけではないんだけれども、グッと引き付けられる威厳があります。
醤油がずらりと並ぶ店内。
お店の中は和洋折衷といいますか、明治時代の建物のような雰囲気。奥の板張りの部分がテイスティングバーになっていて、手前の醤油が並んでいるのが物販スペース。間を仕切る引き戸は江戸時代のものだとか、江戸の商家と現代の店が見事に調和しています。
九州にある醸造所製の醤油が並ぶ。
店内で販売されている醤油の一部、筆者愛用のヤマタカ醤油もあります。さらに面白いのがスプレー醤油、必要な量だけシュッとひとふき。無駄も無く使用量も抑えられるので、塩分を気にする人には絶対おススメ。
佐賀、鹿児島、福岡、熊本…といった県名が書かれている棚。
九州各地の醤油が並ぶ棚、用途に合わせて選べる様々な醤油たち。九州の醤油を中心に、オリジナルや海外のものも含めて200種ほどあるそうです。この日は後の予定が詰まっていたので長居できないのが残念。あとコミュ障なので、人との会話が苦手なんですよね…人と話したり接したりするのが辛い、何とかならないんでしょうかねぇ。
会話の中で醤油ソムリエに薦められた鹿児島の醤油。
関西で生まれ育って、19歳で地元を飛び出してからは全国16県に引っ越した経験を持つ筆者だけれども、九州独特の甘い醤油にハマって醤油好きになったんです…みたいな会話を醤油ソムリエさんとしていると、それなら鹿児島はもっと甘いですよと勧めてくれたのがこの醤油「名蔵専醤」脂ののった魚の刺身に最適とのこと。
訪れたのは冬、この時期の魚は脂がのっている。ならば今の時期に選ぶ刺身醤油には最適じゃないか!という事で、迷わず購入。帰りに刺身買って食べてみよう。
販売スペースの奥にあるテイスティングバー。
醤油のテイスティングというか、味見を薦められたんだけれども、時間が押していたので今回は遠慮させていただきました。で、テイスティングコーナーを見せていただいたんですけれども、見てくださいよこの醤油の数。これだけの醤油を試して選ぶことが出来る場所なんて、そうそうありませんよね。醤油メーカーによっては工場で直接小売りもやっていて、そこへいけば自社製品の味見をさせてくれるところはあるけども、この量はないね、見た事ない。
さらにランチもあって、たまごかけご飯もある。小さな贅沢、MY醤油を探すのには最適な場所。
時は幕末、あの西郷隆盛を匿った?
江戸時代末期、薩摩へと逃れる西郷隆盛が隠れたという家の跡。
福岡の人でも殆ど知ってる人がいないんじゃないかと思われる、西郷南洲翁隠家乃跡と書かれた石碑。西郷南洲翁というのは西郷隆盛のことです。これは福岡天神の舞鶴にあって、親不孝通りからチョット西に入った福萬醤油からも歩いてスグの場所。
紹介している記事↓
この碑が福萬醤油と何の関係があるのかというと、西郷隆盛を匿ったのが白木家代十一代当主、福萬醤油の二代目である白木太七という人。場所は福萬醤油の蔵。そう、幕末はここに福萬醤油があり、西郷隆盛が隠れ住んでいたんです。ビックリですよね。
西郷隆盛を匿った当時の福萬醤油を描いた図面
現在の福萬醤油の壁には古い図面が掛けられていて、この図面は江戸時代の福萬醤油の敷地や建物の配置が描かれています。図面の中に蔵と書かれた場所が二か所あるのですが、この蔵に西郷隆盛を匿っていたというのです。
醤油好きが老舗醤油屋さんを訪ねたら、凄い金鉱脈にぶつかったような、奇跡のような歴史との出会い。西郷隆盛がここにどれだけ滞在したか定かではありませんが、薩摩に帰る途中に立ち寄った場所であり、大宰府へと向かっていましたからほんの数日だったのか、それほど長い期間じゃなかったと思われます。
福萬醤油の創業者は有名戦国大名の一族
画像:越前朝倉氏遺跡(フォトAC)フリー画像
この記事を書くためにさらに福萬醤油の情報などを探していると、なんとまた凄い事実が判明。なんと福萬醤油の創業者というか現在もですけど、あの有名な戦国大名朝倉氏の一族だったのです。朝倉氏といえば越前守護、現在の福井県周辺で強大な勢力を誇った大名家。
織田信長との金ヶ崎の合戦では織田軍を打ち破り、後の豊臣秀吉、木下藤吉郎が決死の殿を務め「金ヶ崎の退き口」と呼ばれる壮絶な撤退戦を展開したことで有名な朝倉氏です。近江(滋賀県)の六角氏などと共に機内に睨みを聞かせていた大大名、室町将軍家とも非常に近い関係にあった大名です。
「白木正四郎の福萬醤油」ブログによると、白木氏の来歴は以下の通り。
福萬醤油の創業者である白木一族は、もとは朝倉性を名乗っていました。越前朝倉氏は織田信長との戦いに敗北、朝倉氏最後の当主である朝倉義景は切腹し越前守護朝倉宗家は滅亡。しかし朝倉義景の弟である朝倉刑部太夫景遠は越前(福井県)白木谷へと逃れる。その子である忠右衛門景定は朝倉性を改めて白木性を名乗り、織田信長による朝倉狩りの追っ手を逃れて備前の国に渡り黒田官兵衛に仕え、黒田二十四騎の筆頭家老である栗山備後守利安の家臣となる。
つまり、越前守護朝倉氏の後継にあたる血筋。
福岡藩士として使える事となった白木氏、しかし二代福岡藩主黒田忠之の代で発生した黒田騒動によって家老栗山大善が失脚、盛岡へ配流となります。栗山大善の失脚に伴い、その家臣であった白木氏は浪人となり後に福萬醤油を創業して現在に至ります。
という事はですよ、この店にいる当代福萬醤油の当主は、あの戦国大名である朝倉氏の一門ということになるんですよ。すごくないですか、これには本気でビックリしました。
ただ、この朝倉景遠という人がいくら調べても出てこないんです、朝倉景遠は越前国細呂木を領したそうなのですが、他の資料によると朝倉氏の武将堀江氏一族の細呂木氏が細呂木城に居住していたというものもあります。歴史というのは勝者によって書き換えられ、真実をあえて闇に葬ったりすることもあります。織田信長の追及をかわすために朝倉一族の存在を隠さなければならなかったのか、何かしら事情があったのかもしれません。
いずれにしても白木氏は福岡藩の家老栗山家に仕える家臣であった事は間違いなく、黒田騒動によって浪人した結果として現在の福萬醤油がある。歴史の繋がりを感じる場所が、目の前にあるんです。
歴史というのは正解が分からないからこそ楽しいのであって、資料を読み解き想像力を働かせて過去へと思いを馳せ、自分が思い描くロマンを感じることが出来る。それこそが魅力なのです。
鹿児島の醤油、美味しいですよ
福萬醤油で買った鹿児島の醤油と、サンプルとしてもらった塩分0の醤油。
休日を使ったブログのネタ探しである天神・博多巡りを終え、帰宅して購入した醤油を味わってみる事にしました。鹿児島の醤油はなかなか手に入りませんし、初めてなのでとっても楽しみ。サンプルとしてもらった塩を使わない醤油、これも気になりますね。
鹿児島の醤油「名蔵専醤」の原材料表示。
まずは原材料の表示、九州の醤油は甘味を出すために砂糖などを入れる場合が多いんです。甘味料と書かれていないのがいいですね。製造は藤安醸造、明治3年(1870年)創業の老舗です。
まずはそのままダイレクト。
かるくスプーンに注いで、そのままで味わってみます。香りが立っていてとても美味しそう、口に含むと醤油の香りが口いっぱいに広がって九州醤油独特の旨みがある。コクのある醤油ですね、塩気はそれなりにありますが、マイルドでしょっぱさはあまり感じません。うん、美味しい。
これなら刺身醤油としてだけでなく、肉料理などに濃い口(旨口)醤油としても使えそうです。
近所のスーパー、ハローデイで買って来た「ブリづくし」というお寿司。
旨みの強い醤油なら脂ののった魚が合うと聞いたので、鮮魚の品揃えに定評のあるスーパー「ハローデイ」で見かけたブリの鮨を買ってきました。
まずは普通のブリの身の部分から、マグロでいうところの赤身みたいなもんです。
続いて腹身の握り、脂がしっかりのっててメッチャ美味しそう。
これを撮影しているのは冬、2月なので寒ブリですね。脂がのっていて醤油をはじきます。醤油をつけて食べてみると、しっかり醤油の味、香りが立っていてコクがある。刺身醤油の中にはわざとらしい甘さを持つ製品があるけども、この醤油は甘味というより自然なうま味、甘さに嫌味が無い。旨みが強いので、味がとてもまろやか。これは美味しい、ブリにはピッタリの醤油。
ついでなので、塩分ゼロもダイレクトで。
続いて塩分ゼロの醤油もついでに一口…ぐっ、最初にアルコール臭がググっ来ますね。なんだろ、口に入った瞬間は、想像している醤油とはかなり違った味わいなんだけども、後から来るうま味は醤油そのもの。
これはアレですね、そのままじゃなくて調味料として使うべき醤油です。今度料理に使ってみよう。
お店情報
福岡の人って歴史にあまり興味が無い…という人が多いのか、博多や福岡の歴史に触れようと思っても観光客向けの薄っぺらい情報しかないんですよ。しかし実際に町に出て探してみると、思わぬところからビックリするような歴史ネタが出てくる場所でもあるんですね。まさに宝探し。
今回お邪魔した福萬醤油もそんな場所の一つでした。まさか江戸時代の醤油屋さんから西郷隆盛に繋がって、最後は越前朝倉氏までいってしまうとは思いませんでしたよ。扱っている醤油も福岡ではナカナカ手に入らないようなレアものが充実していて、しかも醤油ソムリエというプロが常駐している。こんどはスプレー醤油のレビューでも書きたいなぁと思います。興味を持って頂いたら、たまにブログを覗いてみてください。
「福萬醤油」
住所:福岡市中央区天神3丁目6-9
営業時間:10:00から17:00(ランチ11:30から14:00)
店休日:正月休暇のみ
参考サイト
白木正四郎の福萬醤油
TENONてのん
※この記事は私が訪れた時のものです、現状と異なる場合があります。最新情報、詳細はご自身で確認することをおすすめします。
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