福岡天神のど真ん中、大名にある江戸から続く老舗の醤油屋さん。工場に残る国指定文化財の一部は見学も可能。
「ジョーキュー」老舗の本気は凄かった
ジョーキュー醤油は福岡最大の繁華街である天神、なかでも個性的なファッションやグルメの店が立ち並ぶ大名にあります。福岡藩城下町の面影を今に残す街並み、変わらずあり続ける江戸時代からの老舗。それだけでも凄いんだけれども、さらにこのお店には十一件もの国指定重要文化財があって、一般の人でも見学できるらしいのです。何度もお店の前を通っていたのですが、そんなこと聞いたことがありませんでした。皆さんは知ってました?
ジョーキュー醤油の創業は1855年、安政2年というから江戸時代末期ごろでしょうか。明治維新に向けて時代が加速し始める切っ掛けとなった安政の大獄が安政5年スタートですから、まさに激動の時代です。
城下町の姿を残す町並み
天神西通りから西方向。大名に残る江戸時代、城下町の道
ジョーキュー醤油の外観
天神の西、大名と天神の間を南北に貫く天神西通り。日頃から多くの人で賑わう繁華街、そんな中に今も江戸時代からの道が残っています。ジョーキュー醤油があるのはそんな城下町の道り沿い。かつて紺屋町と呼ばれていた場所、江戸時代から変わらず同じ場所に建つ醤油メーカーです。
ジョーキュー醤油の壁越しに見える古そうな建物
敵の侵攻を防ぐため、直角に曲がる道
ジョーキュー醤油のレンガ色した存在感ある建物の前を通り、ふと目線をあげてみると壁越しにレトロな建物が見えていました。江戸時代から続く老舗だけに、中にはこういう古いものが残っているんだろうなと思いながら西方向、福岡城の方向へと歩いて行きます。この道は典型的な江戸時代の防衛機構になっていて、城下町だけでなく宿場町などにも多く見られる鍵状に曲がった直角カーブ。これは先を見通せなくすることで、侵攻してくる敵軍の行動を阻害したり迎撃するための道。
今でも江戸時代の姿を留める街並み、ここ好きなんですよね。
ジョーキュー醤油の店舗入り口
そういえばショーキュー醤油はまだ使ったことが無い。福岡の老舗と言えば必ず名前があがる有名メーカーなんだけれども、なぜだか今まで縁が無かったんですよ。福岡に来てから醤油にハマって、佐賀の佐星醤油や伊万里の西岡醤油、他にもイロイロ使っていて、今は早良区の醤油メーカーのものを使っています。
せっかくなのでショーキューの醤油も買ってみようとお店へ引き返していくと、入口にメッチャ嬉しい張り紙が。
自由に見学できると書いてある張り紙
「弊社建造物」及び「松村家住宅」の計十一件が国の登録有形文化財に登録されたと書かれています。そして最後の一文
どうぞ、ご自由にご覧ください
え~っ、見ていいんだ。さすが老舗、凄いよジョーキュー。すんごい太っ腹というか、こうやって張り出してくれると嬉しいですよね。ちなみに松村家住宅の松村家、ジョーキューの創業者は松村半次郎さんです。
明るく広々とした店内、ジョーキューの醤油や調味料がずらりと並ぶ
歴史や古い物が大好きな筆者、見てイイと言われれば見に行きますとも。てか、素通りできないでしょコレ、御厚意に甘えさせていただきます。ということでジョーキュー醤油の店内へ。
店内はとても静かで品があって、ジョーキューの製品が整然と並んでいます。思わず恐縮してしまいますね。貧乏人の性というか、身の程を知っているだけに上品な店内で恐縮してしまいます。
ジョーキューは店内にも見どころがあります
歴史を感じさせる展示スペース
店内に掛けられていた城下絵図、ジョーキューの場所に色が塗られています。ちょっと見難いので編集で矢印を追加。
店内の一角に古い写真や醤油を入れていたと思われる歴史を感じさせる容器、福岡城の城下町図、鉄道の時刻表などが飾られていました。福岡の城下絵図は1750年代に描かれたものでジョーキュー創業の前ですが、幕末まで城下町の構造に大きな変化はありませんでした。福岡城にはかつて東へと続く大きな堀があり城下を南北に分けていて、ジョーキューはちょうど堀の南側、堀端にあったんですね。
大正十五年改訂と書かれた博多駅の時刻表
大正時代の博多駅時刻表がありました。門司発や博多発、行先には鳥栖や八代、鹿児島など今の行先駅とほぼ同じですね。上り電車は途中で接続して乗り継ぎがあったみたいです。接続に三田尻という名前がはいっていますね、三田尻といえば現在の山口県防府市の南部にある港。江戸時代の長州藩海軍根拠地であり幕末の志士たちが頻繁に出入りした場所で、坂本龍馬や山縣有朋、品川弥二郎、伊藤博文、高杉晋作などが立ち寄った地として有名です。また太平洋戦争末期、沖縄へ向かう戦艦大和と第二水雷戦隊がここから出発しました。筆者がまだ若かったころ航空自衛隊に入隊したのですが、教育隊がある防府南基地のすぐ目の前なので思い出深い地名なのです。まさか福岡の醤油屋さんで三田尻の地名を見ることになるとは思いませんでした。
地域の歴史がかかれた木版
壁には地域の歴史について書かれた木板が掛けられていて、これを読んで街を歩くのとそうでないのとでは大違い。しかも近くに宮本武蔵が住んでいて、兵法の稽古をつけていた事もあるそうです。
もちろん商品も醤油ベースの様々な調味料が並んでいて興味深いのですが、やっぱアマチュア歴史ファンとしては江戸時代からの生き字引のような老舗に伝わる話には興味があるわけで…いや、これだけでも立ち寄った甲斐がありますよ。
中庭に建つ歴史建造物
中庭に建つ重要文化財
買い物そっちのけでキョロキョロと店内を見まわしながら写真を撮る筆者、普通なら嫌な客なんだろうけども、お店のスタッフはとても上品で優しいんです。庭も見ていいですよとスーツ姿のスタッフに案内され、おまけに簡単な説明までしてくれるというおまけつき。
という事で庭へ出ると目の前に立派な二階建て住宅と古そうな土蔵。住宅は昭和初期頃の建物とのこと、立派な居宅です。
仕込蔵の案内看板
土蔵は江戸時代に建てられたもので、今も現役で稼働しているそうです。「まだ実際に使用しているので、中をご案内するわけにはいきませんが…」とお店のスタッフが申し訳なさそうに言うんですけど、いやいや当然ですよ、庭から外観を見せてもらっただけで十分です、ハイ。
しかし現在も百年杉桶を使って天然醸造をやってるんですね。
色褪せた銅板が時代を感じさせます。
古い土蔵と言えばコレ、窓などの開口部に取り付けられた銅製の外扉。白壁にこの青緑みたいな色が映えてとても綺麗なんです。
松村家住宅の説明看板
建築当時のままのガラス窓
昭和初期と言えばガラスが今ほどの強度が無く、貴重で高価だった時代。なので窓は中小のガラスを何枚も組み合わせた物になっています。これがまた綺麗なんですよね、昭和の建物ですが大正時代の家屋を思わせる造りです。ガラスは建築当時のものがそのまま使われているそうで、ガラス越しに見ると少し歪んでみえるそうです。
外から壁越しに見えていた古い建物、表座敷です
そとから壁越しに見えていた建物もありました。この建物は明治前期の建物、接客用の座敷棟。西南戦争時には官軍の宿舎として使われたという歴史ある建物、現在も現役で使われているそうです。
これまた古そうな建物です
表座敷と続きで建てられている建物。これもまた古そうですよね、江戸時代そのままの特徴を残しているように見えます。リアルに歴史を感じられる素晴らしい建物。
福岡空襲の際にはこのジョーキュー醤油も周りを炎に包まれ焼失した建物もあるそうですが、よくぞこれだけの建物を今まで残してくれました。かつて佐賀の神埼というところにある老舗の製麺所を訪ねたときに、古い建物が見事だと言ったら「古い物は残すのも大変なんですよ」と店の人が言っていたことを思い出しました。
ジョーキューは醤油も美味しいのです
ジョーキューのうまくち醤油と和風おろしのたれ
ジョーキューで醤油と調味料を買ってきました。さすがに親切に見学させてもらい、簡単な説明までしてもらったんですから手ぶらじゃ帰れませんよ。普段は空気読むなんて大嫌いなんだけれども、さすがに手ぶらで帰るほど厚顔にはなれませんでした。
というより醤油が好きなので、醤油を買うつもりでしたからね。
醤油の原材料表示。もちろん本醸造
「うまくち」と書かれている醤油ですが、福岡の醤油は本州のそれと比べて少し甘く感じるうま味の強い醤油なんですよね。これを普通の「こいくち」醤油として使います。炊き込みご飯なんかに使うと、ほんと美味しいんですよ。福岡や佐賀の九州醤油は大好きですね。
醤油を一口、味見してみました。
スプーンにとって醤油をひとくち…うん、うま味のある九州醤油。香りもよくて美味しいです。本州の醤油のように刺激的な塩気がなくて、凄く柔らかいんですよ、九州の醤油は。なのでこうやってスプーンで飲んでも普通に美味しい。
ジョーキューの醤油は甘すぎず、シッカリ醤油の風味がします。九州醤油のなかでは醤油らしい醤油、口当たりはマイルドでジワーッと旨みが広がります。味のキレは良くて、後味はスッキリしています。クセが無くてお手本通りというか、無難と言えば無難なんだけれども、だからこそ多くの人が美味しいという味なんだと思います。何かを尖らせてエッジをきかせると好き嫌いが別れますからね。
和風おろしのたれ原材料表示
生姜にニンニク、玉ねぎ、そこへ大根が入っています。
こちらもストレートで一口
スプーンにとってひとくち…あぁっ!これアレだ、ジャポネソース風。すんげぇ好きな味、これは美味しい。冷製パスタとかに使えば抜群なんじゃないでしょうか、あと煮込みハンバーグにも良いでしょうね。ニンニクと生姜、玉ねぎがしっかりきいていて、コクがあって香りと旨味がシッカリ。
醤油ベースの和風なんだけれども、肉料理なんかと相性が良さそう。焼き肉のたれだと濃すぎる…というときに使えばうま味とコクと風味はそのままに、アッサリ優しい味にできるはず。これは利用シーンが多そう、自宅に常備したい調味料ですね。
長く続くには訳がある
前を通った事は何度もあったんだけれども、立ち寄ったのは今回が初めてだったジョーキュー醤油。福岡の老舗としては凄くメジャーなメーカーで、いろんな所で名前は何度も聞いていた醤油屋さん。醤油好きとしては気になっていたんだけれども、あまりにもメジャーすぎるので「いつでも行ける」という感じで今まで立ち寄ることが無かったんですよ。
で、今回初めてお店に行ったんだけれども、とにかくサービス精神が素晴らしいですね。地域活動などにも積極的に取り組んでいるようで、長く愛される会社というのはやっぱ凄いなぁと思った次第。開発が進んだ福岡の中心部でこれだけの古い建物が残っているのも凄いし、一般の人にも普通に公開されていて、実物を目にして歴史を感じることが出来る。残していくのには色々と苦労もあったかもしれませんが、残してくれたことに感謝。ほんと有難い事です。
という事で福岡を代表する老舗企業、ジョーキュー醤油は観光にもおススメですよ。
「ジョーキュー醤油」
住所:福岡市中央区大名1丁目12-15
営業時間:9:00~18:00
定休日: 日・祝日※土曜日は営業
※この記事は私が訪れた時のものです、現状と異なる場合があります。最新情報、詳細はご自身で確認することをおすすめします。
ジョーキュー醤油公式サイト⇒http://www.jokyu.co.jp/
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