街を歩いていると、突然目の前に過去の風景が広がる。えっ!と、あわてて振り返るとそこは今まで歩いていた現代の風景。まるでラノベの主人公にでもなったのか、その空間だけが切り取られ過去と繋がっているような感覚。人は時空の狭間だとか時空のポケットと呼ぶかもしれない、そんなバカげたことを考えてしまった場所が九州の最先端を行く福岡天神、今泉1丁目にあった。
「若造よ何しに来た」と声が聞こえてきそうな重厚かつ荘厳な構造物、雄々しく天に向かって建つ5階建てコンクリートの塊……のようなビル。このままトランスフォームしても驚かない、と言いたいけど驚くよね普通。
「福岡縣農民會館」今泉一丁目
福岡県農民会館のビル。
福岡天神、その中心ともいえる西鉄福岡(天神)駅の少し南へ国体道路を渡った先、西鉄高架下のビッグカメラ。その携帯売り場から、隣のPC売り場へと渡る間の通り道。
そこを西方向へ少し歩くと、目の前に強烈な存在感を放つビルを発見。どうですかこの外観、鉄筋コンクリートの武骨なビル。歴史を感じさせる重厚な佇まい、ただものではありません。
この界隈は今泉という場所で、天神最寄りのラブホテル街があったり、最近ではシャレた飲食店などが続々と出店したり、若者を中心に注目を集めているスポットなのです。ちなみにこのビルの裏は中央保育園。
福岡県農民会館ビルの正面入り口。
入口階段の壁にはデカデカとストリートアートが描かれています。
なんのビルかと思い、正面から入り口に掛けられている看板を見てみると「福岡縣農民會館」と書いてある。県が縣になっているあたり、レトロ好きにはたまらない。渋すぎる…
壁に書かれたストリートアートの数々。
こちらはなかなかの大作。
壁の各所に描かれたストリートアートの文字。ビルの外観と相まって、どこか退廃的な現代アート作品のようにも見える。無許可で書いてるなら落書きだし、器物損壊に当たるかもしれないのでダメだけど。
ただ、このビルとの組み合わせは非常に面白くて、有名なストリートアーティストに上から書き直してもらったなら、街を代表するアート作品になるかもしれない。戦後復興から繁栄を迎え、衰退し荒廃していく……その中でも力強く生きる人々。みたいな、まさに現代日本の過去未来を表すような作品になりそう。
リノベーションして博多にある冷泉荘みたいなギャラリーにすれば、場所柄もあって街なかコミュニティの拠点になるんじゃないでしょうか。いちブロガーの勝手な意見ですが。
農民会館に取り付けられたプレート。
さらに階段脇には農民会館について書かれたプレートがあり「農業の発展と農民の地位向上のために、だれでも利用できる農民センターとして建てられた」と書かれています。建設にあたっては農協や自治体、その他おおくの団体や有志の協力があったとも。
竣工は1975年、総工費は1億円。
ビルの前に止められた自動車。
ビルの前に止められていた自動車、全労連と書かれています。正式名称は「全国労働組合連絡協議会」共産党との繋がりが深い団体ですね。ひょっとして、アンタッチャブルな場所なのかな。
と思って調べてみたら、中にはホールなどもあってイベントに使用されたりしていたようです。今もそうなのかは不明。
今どきのビルではあまりみかけない、堅牢な躯体。
このビルの特徴はなんと言ってもこの重厚なコンクリートの躯体ですよ、巨大なコンクリートがググっとせり出して窓が少し中に入ったようになっている。かなり厳つい、押しの強い外観になっています。
古いビルって平面に窓枠を付けたような外観が多いけども、これだけ頑丈そうなビルは珍しいんじゃないでしょうかね。まるで旧軍の施設みたいだ。この強烈なインパクトと圧倒的な存在感、うまく活かして末永く活用してもらたいですね。
そろそろ昭和20年代から40年代くらいの建物も、高く評価されていいんじゃないかと思う今日この頃。所有者にしてみれば大きなお世話なんでしょうけど、古い建物と新しい建物が共存する街というのは美しいですよね。
急速に開発が進む天神と周辺地域、ここ今泉にも開発の波は押し寄せていますが、このビルの前だけ時間が止まったような、いや、むしろ逆行したような感覚に陥る不思議な場所でした。それだけの存在感のある貴重なビル、レトロ建物好きは必見じゃないでしょうか。
「福岡県農民会館」
住所:福岡市中央区今泉1丁目13-19
※この記事は私が訪問した時のものです、現状と異なる場合があります。
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